近代日本の漆工芸/荒川浩和監修/松田権六序//近代漆工藝に関して纏った図書が少いため今回の図録刊行は大変喜ばしいことである

商品説明
近代日本の漆工芸/荒川浩和監修/松田権六序//近代漆工藝に関して纏った図書が少いため今回の図録刊行は大変喜ばしいことである

昭和60年 323P 39.8㎝×28㎝程度 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

近代の漆工を語る
人間国宝 松田 権六

近代の漆工藝に関しては、纏った図書が少い折から、今回の図録刊行は大変喜ばしいことである。

図版を見ていると、私が直接間接に知ってゐる人達の作品が次から次へと出て来るので、色々なことが思ひ出される。明治の初めの柴田是真・川之邊一朝・小川松民は直接知らないが、松民門下の六角紫水は縁が深い。大正三年に東京美術学校受験の為初めて上京し、まづ逗留した所が紫水邸である。紫水は門下生二十人程を引連れ、毎年夏の間宮城の一室づつに蒔絵をしてをり、数年間續いた。これは、明治天皇以来皇室が漆に対して示された御理解の現れであり、ヨーロッパの宮殿装飾にも勝る豪華なものであったが、大戦で焼失し、図録等にも残ってゐない。私が手掛けたものでは、国会議事堂の便殿の蒔絵が今も見られる。また、献上品の手傳をした関係上、川之邊家で幸阿弥派の特徴を習得したのを初め、各派の蒔絵法も知ることができた。

学校では教授の白山松哉、助教授の紫水の他に、橋本市蔵・辻村松華以下多くの先生方の教を受けた。渡邊香涯は図案を教へてをり、特に私は紫水の紹介で絵を習ふことになり、そのうち図案の手傳もするやうになった。この図録の中には、当時の図案をもとにした作品もかなりあり、中には作品に仕上った様子を初めて見るといふものもある。また、大垣昌訓は金沢時代の師であり、植松包美・辻村松華・赤塚自得・磯矢完山・太田喜久太郎等にも技術上で教へられるところがあり、二十代堆朱楊成・迎田秋悦・神坂祐吉・江馬長閑・船橋舟珉等はよく知ってゐる間柄である。

紫水邸に居る頃、アメリカのウォーナー博士夫妻の御世話を仰せつかり、博士から岡倉天心の偉大さを聞かされた。当時天心は病中にあり、直接お目にかかることはできなかったが、天心の門下生に色々天心のことを尋ねて廻った。横山大観・下村観山・木村武山・紫水や帝室博物館の溝口禎次郎等、直接天心の警咳に接してゐる人達は、異口同音に次のやうに云ってゐる。天心は作品の欠点を指摘することはなく、その長所を助長するやう具体的建設的な評を下される、と。このことは後々まで、ものの見方に対する心得としてゐる。

日本漆工会の設立当初のことで、興味深いことを聞いてある。初代会頭を品川彌二郎にお願ひしたが、品川は当時宮内大臣の要職にあり、民間の役職は引受けるわけにはゆかぬと一旦断られてゐる。品川がこのことを明治天皇に申上げたところ、漆は日本を代表する世界的文化遺産であるからその役を引受けるようにとの仰せであった。いはば勅命で初代会頭が決定したことになり、近代の漆工藝界とはそのやうな栄誉に輝いてあるわけであるから、漆に関りのある者はこのことを知っておくべきであろう。(文中敬称略)

お探しの方、お好きな 方いかがでしょうか。

品ですので傷・黄ばみ・破れ・折れ等経年の汚れはあります。外箱小傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。ご理解の上ご入札ください。 もちろん読む分には問題ありません。202372