2010年にブルース・インターアクションズ社から出版されたジャズ・ミュージシャンの写真集＋三つの願いというアンケートへの回答集。初版。これは、もはやコレクターズ・アイテム化しつつある本です。鍵になるのは、この写真集に集められた写真を撮影し、あるいは時にミュージシャンたちと一緒に被写体になっているのが、伝説のパトロンだったパノニカ・ドゥ・コーニグスウォーターだということです。「ニカ」の愛称で親しまれたパノニカは、財閥ロスチャイルド家の家系に生まれ、白人の女性であるにも関わらず、積極的にジャズを支援し続けた人で、ことにセロニアス・モンクとの交流はよく知られています（一緒に大麻所持で逮捕されたりまでしている）。なので、この写真集にもモンクの日常を切り取ったイメージが多いのですが、そのほかの多くのミュージシャンの写真も含まれ、彼らがそれぞれ「三つの願い」という質問に対する回答を寄せているのも面白く読めます。モンクの「Pannonica」という曲が彼女に捧げられていることはジャズファンには広く知られていますが、デューク・ジョーダンにも同名の曲があります。他にも、ソニー・クラーク、トミー・フラナガン、ケニー・ドリュー、ホレス・シルヴァーなど、錚々たるミュージシャンたちが彼女に捧げた曲を残しています。そのパノニカ自身が写っている写真も多く収められていますが、この日本語版は、かつて出版された英語版とフランス語版を下にして、それらを合体させたような独自編集になっているらしく、その意味でも貴重な本です。ニカの孫娘、ナディーヌ・ドゥ・クゥニグズヴァルテール、そしてゲーリー・ギディンズによる二つの序文は、ニカとジャズの関わりについて詳しく語ってくれていて、どちらも驚きのエピソードに満ちています。全体的にとてもいいコンディションですが、カヴァーの上端にヨレが見られ、表紙の下端にスレがあります。拡大写真を参照ください。もはや入手困難な本で、なかなかいいコンディションでは見つけられないものかと思います。ジャズあるいはニカやモンクに関心のある人には強力にオススメします。